1. 発見・化学名 ビタミンB12(B12)は,抗悪性貧血因子として発見されましたが,1926年MinotとMurphyによって,悪性貧血に肝臓療法の有効なことが見いだされ,この未知因子探求の発端となる重要な手がかりが与えられました.続いてCastleによって,食物中に含まれる抗悪性貧血因子は,それ自体では効力を示さず,胃液中に含まれる成分も必要なことが明らかにされ,胃液中の成分を内因子(intrinsic factor,IF),抗悪性貧血因子の方を外因子と呼ぶことが提唱されました. この抗悪性貧血因子は,1948年G.R. Rickesら,E.L. Smithらにより,それぞれ独立的にほぼ同時に大量の牛の肝臓から深紅の結晶として単離され,ビタミンB12と名付けられました. 1956年D.M.C. HodgkinらがX線解析によりB12(シアノB12)の全構造の解明に成功しました.また,H. Barkerらが細菌におけるグルタミン酸異性化反応に関与する光に不安定な補酵素型B12を発見し,それが LenhertとHodgkinの解析によって,アデノシルB12であると判明しました.その後,Lindstrandらが,人体内にメチルB12が存在することを示し,現在知られている補酵素型の二つのB12が出そろいました. 1972年P.B. Woodwardらが,B12前駆体のコビル酸を合成し,続いてB12の全合成に成功しました. ビタミンB12は,中心にコバルト原子を含むテトラピロール系化合物で,下方からヌクレオチド塩基の5,6-ジメチルベンズイミダゾールが配位した完全型のビタミンB12は,コバラミンとも呼ばれます.完全型,不完全型の種々のビタミンB12類縁体が存在し,上方からシアノ基の配位したシアノB12(シアノコバラミン,狭義のビタミンB12),ヒドロキシル基の配位したヒドロキソB12,上述のメチルB12,アデノシルB12などが主要なコバラミンです. 2. 欠乏症 ビタミンB12の欠乏症は,巨赤芽球性の悪性貧血が代表的なものですが,メチルマロン酸尿(血)症,ホモシステイン尿(血)症や神経障害なども発症します. 最近では,睡眠遅延症候群や,がん,アルツハイマー症などとの関係や,特に動脈硬化症発症との関係が注目されています. 3. 生化学と生理作用 ビタミンB12は,回腸から吸収されますが,その後トランスコバラミンII(TCII)と呼ばれる血中のタンパク質と結合して血液中を運ばれ,受容体により細胞に入り,補酵素型に変換されます. 現在ビタミンB12関与酵素として10種余り知られていますが,ヒトの場合には,主としてメチルB12の関与するメチオニンシンターゼとアデノシルB12が関与するメチルマロニル-CoAムターゼの二つの酵素が働いています.前者の酵素系は,5-メチルテトラヒドロ葉酸からのメチル基を受け,それをホモシステインに移しメチオニンを生成する反応を触媒します.後者は,メチルマロニル-CoAのスクシニル-CoAへの変換を触媒します.これら酵素は,核酸,タンパク質,脂質,炭水化物の代謝などに関係しますが,メチオニンシンターゼの方がDNAなどのメチル化を含むC-1ユニット代謝にかかわり,生理的により主要な働きをしている可能性が高いと考えられます. 4. 食事摂取基準と多く含む食品 ビタミンB12の推定平均必要量は,血液学的性状および血清B12濃度を適正に維持できる濃度から算定されています.シアノコバラミン相当量として,18〜49歳の成人で推定平均必要量は2.0μg/日,推奨量は2.4μg/日(推定平均必要量×1.2)と決められています.B12の食事摂取基準には男女差はありません. ビタミンB12を多く含む食品として,日本食品標準成分表2010によると,肝臓・ウシ肝,青魚・サンマ,貝類・アサリが挙げられますが,卵や乳製品なども比較的良い給源です.ビタミンB12は微生物によってしか生合成されないため植物性食品にはほとんど含まれていませんが,例外的にあま海苔・アサクサノリ(ほしのり)(77.6)などに多く含まれています.これは付着バクテリアなどに由来するものと考えられています.