1. 発見・化学名 1928年 A. Szent-がウシ副腎から新しい糖類似物質を結晶状に分離し,へキスロン酸と命名しました.ほとんど同じ時期にC.G. Kingらによってレモンから分離されビタミンCと確認された.ビタミンCの化学名はアスコルビン酸(ascorbic acid, AsA)ですが,これは抗壊血病効果をもつ酸,すなわち抗(anti-),壊血病の(scorbutic),酸/因子(acid)に由来します. 2. 欠乏症 ビタミンCの研究は,欠乏に由来する壊血病とその治療から始まりました.この病気は全身倦怠,疲労感,関節痛,身体各部からの出血をもたらします. ウシ,ウマ,ブタなどの他の多くの動物はブドウ糖を初発物質としてウロン酸サイクルを利用して合成しますが,ヒト,サル,モルモット,高等な鳥類などは,ビタミンCを合成できません.これらの動物では生合成経路の最終段階を触媒するグロノラクトン酸化酵素が遺伝的に欠損しているからです. 3. 生化学と生理作用 生体内では,ビタミンCのほとんどは還元型AsAですが,一部酸化型AsAとして存在します.ビタミンCは酸味を有する無色の結晶で,水,アルコールにもよく溶けますが,エーテルやベンゼンなどの有機溶媒には不溶です. ビタミンCは酸性では比較的安定ですが,アルカリ性では容易に酸化されます. ビタミンCの酸化は二段階で進みます.一電子が引き抜かれモノデヒドロAsAになり,この中間体は二分子の不均一化反応によりAsAと酸化型AsAになります.ビタミンCが効率的に生理機能を発現するためには,AsAの再還元系が必要となります.モノデヒドロAsAはNAD(P)Hを電子供与体とするモノデヒドロAsA還元酵素により,デヒドロAsAはグルタチオンを利用する還元酵素により再還元されます. ビタミンCの機能はその還元力によるものです.以下に,簡単に生理機能を述べます. a) 抗酸化作用:ビタミンCはスーパーオキシド (O2-),ヒドロキシラジカル (・OH),過酸化水素 (H2O2),一重項酸素 (1O2) などの活性酸素種の消去剤として機能します. b) コラーゲンの形成:ヒトの総タンパク質の約30%を占めるコラーゲンの合成に関与します.コラーゲンが正常な三次構造を形成するためにそのペプチド鎖中に多く含まれるプロリンとリジンが水酸化される必要があります.この水酸化を触媒する酵素は鉄イオンを必要としますが,その還元にビタミンCが必要です. c) 生体異物の代謝:体内に進入したさまざまな異物はシトクロームP-450という酵素タンパク質で解毒/代謝されますが,ビタミンCはこれらの酵素タンパク質の維持に必要です. d) コレステロール/脂肪酸の代謝:Cは脂肪酸の分解に関与するカルニチンがリジンから生合成される過程の二つの水酸化酵素のコファクターなります.さらに,コレステロールから胆汁酸を合成する酵素の維持にもビタミンCが必要とされます. e) アミノ酸,ホルモンの代謝:副腎髄質や神経組織で,チロシンからノルアドレナリンが生成される過程に含まれるドーパミンヒドロキシラーゼにビタミンCが必要です. 他に,ビタミンCは鉄イオンを2価に保つことで吸収を促進します.消化管内での発がん物質の一つであるニトロソアミンの生成を強く抑制します.また,大量摂取による薬理作用として,免疫能の増強,抗腫瘍作用,抗動脈硬化作用,抗血圧作用,抗ヒスタミン作用,白内障予防などが報告されています. 4. 食事摂取基準と多く含む食品 ビタミンCの推定平均必要量は,ビタミンC欠乏症である壊血病の予防を指標とせず,心臓血管系の疾病予防効果ならびに有効な抗酸化作用が期待できる血漿ビタミンC濃度値の維持から決められています.アスコルビン酸相当量として18〜49歳の成人で推定平均必要量は,85mg/日,推奨量は100mg/日(推定平均必要量×1.2)です.ビタミンCの食事摂取基準には男女差は設けられていません. ビタミンCを多く含む食品として,日本食品標準成分表2010によると,パセリ,ブロッコリー(ゆで),ピーマンなどの緑黄色野菜やミカン(生),イチゴなどの果物,緑茶が挙げられます.有効的な摂取を考えると,一食あたりの摂取量が多いジャガイモ(水煮)などの芋類はよい供給源となります.