1. 発見・化学名 1820年にH.A. Mattillらがラットを脱脂粉乳で飼育すると,繁殖できなくなることか発見され,1922年にH.M. EvansとK.S. Bishopが既知のビタミンを含む飼料で飼育すると不妊症になるのに,これにレタスを与えると回復することを見いだし,この未知物質をXと命名しました.このX物質が脂溶性の化学物質であったことから,B.Sureによって1924年ビタミンE(tocopherol)と命名されました.語源はTocos(子 供を産む)+pher(力を与える)+ol(水酸基)=Tocopherolであり,H.M.Evansによって命名されました. 2. 欠乏症 ヒトでは欠乏症はないと長く考えられてきましたが,胆汁うっ滞などによる脂肪吸収障害や,未熟児,遺伝性疾患(家族性ビタミンE単独欠損症)などの特殊な状況では,溶血性貧血や運動失調などの神経症状がみられます.家族性ビタミンE単独欠損症は肝臓内のビタミンE輸送タンパク質に変異を示す疾患で,ビタミンEを体内に保持できないために血中濃度を正常に維持できず,神経障害,とくに脊髄後索に変性をきたすものです. 一方,過剰症はとくに示されていませんが,ときに下痢などの症状を示すことがあります. 3. 生化学と生理作用 ビタミンEにはα-,Β-, γ-,δ-トコフェロールとα-, Β-, γ-,δ-トコトリエノールの8つの同族体が存在し,そのうち生体内ではα-トコフェロールが最も多く存在します.α-トコフェロールの中でも8つの立体異性体が存在し,RRR-α-トコフェロールが天然型と呼ばれ,最も生物活性が高いとされています.栄養学的な使い方をする時はビタミンE,化学的な立場からはα-トコフェロールというのが一般的です. その生理作用は,抗酸化作用によると考えられています.生体膜や油脂中に存在する不飽和脂肪酸の過酸化を抑制することが主な作用で,食用油の劣化(酸化)を防ぐためにα-トコフェロールが添加されています.生体内でもフリーラジカルと呼ばれる反応性の高い化学物質によって生体膜やリポタンパク質中の脂質が酸化されるのをα-トコフェロールが防いでいます.酸化リポタンパク質を貪食したマクロファージが動脈内皮下に沈着することによって粥状動脈硬化症が発症・進展することが知られ,α-トコフェロールはそのリポタンパク質の酸化を抑制して抗動脈硬化作用を示すとされています. また,抗不妊作用も抗酸化作用に基づくことが,肝臓内でα-トコフェロールと結合するα-tocopherol transfer protein (αTTP)の遺伝子をノックアウトしたマウスを用いた実験から確認されました. 4. 食事摂取基準と多く含む食品 日本人の食事摂取基準2010年版では,成人においてビタミンEの目安量は男性7,0mg/日,女性6,5mg/日とされています. E濃度の高い主な食品には,日本食品標準成分表2010によると,ヒマワリ油,サフラワー油,米ヌカ油,大豆油などの植物油類,マーガリン(ソフト),アーモンド(乾)や落花生などの種実類,小麦胚芽などがあります. 5. 備考 日本人の食事摂取基準2010年版でビタミンEの許容上限摂取量が18〜29歳男性において800mg/日(α-トコフェロール),18〜29歳女性においては650mg/日と設定され,市中薬局で購入する場合300mg/日,サプリメントのうち栄養機能食品としては150mg/日が上限とされています.