1. 発見・化学名 パントテン酸は,1933年R.J. Williamsらにより酵母の生育因子群”ビオス”として発見され,その存在が生物界に広く認められたことから至るところに存在する酸という意味で’pantothenic acid’と命名されました.化学名はD-(+)-N-(2,4-ジヒドロキシ-3,3-ジメチルブチル 1)-β-アラニン)です. その後,肝臓や米ヌカから得られた因子で欠乏するとヒヨコの皮膚炎や幼若ラットの成長障害を引き起こす因子が,パントテン酸と同一のものであることが示されました. そして,1938年に,R.J. Williamsらによって,パントテン酸カルシウム塩の単離が,ついで1940年に化学合成の成功が報告され,構造が確定しました. 2. 欠乏症 パントテン酸の生理作用は,そのほとんどがパントテン酸から生合成されるコエンザイムA(CoA)および4′-ホスホパンテテインを補酵素として含む酵素類の作用に基づいています.特に,糖および脂肪酸の代謝とのかかわりが深く,そのため,パントテン酸の欠乏は細胞内のCoA濃度の低下を介して,エネルギー代謝の異常・障害をきたし,広範で複雑な病態をもたらします. 今日,パントテン酸の欠乏症はほとんど存在していないと思われていますが,ラットなどで実験的に引き起こされたパントテン酸欠乏症では,成長停止,体重減少,突然死,皮膚・毛髪・羽毛の障害,副腎障害,末梢神経障害,抗体産生の障害,生殖機能障害などが見られます. 3. 生化学と生理作用 パントテン酸の生理機能は,CoAやアシルキャリヤープロテイン(ACP)の補酵素である4′-ホスホパンテテイン(4′-phosphopantetheine)の構成成分として,脂質の代謝を中心に機能することであり,糖および脂質の代謝とのかかわりが深いビタミンです. 生体内代謝でのCoAやACPの役割は,酸化還元反応,転移反応,加水分解反応,分解反応,異性化反応,合成反応など,ほとんどすべてのタイプの反応に関与し,140種類以上の酵素の補酵素として機能しています. 最も重要なアシル誘導体は,アセチル−CoAで,糖,脂肪酸,アミノ酸の分解代謝で得られるC-2ユニットは,アセチル−CoAの形でプールされ,糖代謝では解糖反応の最終産物であるピルビン酸をアセチル−CoAの形でTCAサイクルへ導入する反応に,また脂肪酸代謝では,β-酸化反応などがこれに相当します.このようにしてプールされたアセチル−CoAは,再度代謝されて体内の構成成分へと変換されたり,エネルギー代謝に利用されます.例えば,脂肪酸の合成反応,不飽和化反応,分岐鎖アミノ酸の代謝,TCAサイクルにおけるα-ケトグルタル酸の酸化反応などがこれに相当します. さらに,生理活性ペプチドの生合成において4′-ホスホパンテテインを補酵素とする酵素が数種類知られています. 4. 食事摂取基準と多く含む食品 パントテン酸は明確な欠乏症の報告がないため,推定平均必要量を算定することができません.そのため,成人の摂取量は食事調査の値を用いて目安量が決められています.つまり,平成17年および18年国民健康・栄養調査の中央値が目安量とされています.目安量は,18〜49歳の成人でパントテン酸相当量として,5mg/日,と決められています.成人では,男女差がありませんが,男女差が設けられています. パントテン酸を多く含む食品として,日本食品標準成分表2010によると,ウシ肝臓,ブタ肝臓,パン酵母(乾),ニワトリ肝臓,落花生(乾),マッシュルーム(生),鶏卵, カリフラワー花序(生)が挙げられます.